すずうくぬつ

自分のための、弟のしじゅうくにちです。その日に思い出した弟との思い出を忘れないように、必死こいて文字化しています。

腕時計

ずいぶん放置してしまった。

先週から、左耳の聞こえが悪くなった。

男性の声がよく聞こえず、女性子供の声はボイスチェンジャーを使って且つ幕がかかったように聞こえる。

私は生まれつき右耳の聴力がないので、日常に大いに支障を来たした。

特にレジのビニールシートや、アクリル板、全然聞こえず辛いのなんの。

通院のお陰で、大分元に戻ってきた。

良かった、これ以上何かを失うのは、御免だ。

 

耳がどうなろうと、子供たちは待ってくれない。

娘は何かを持って動き回る逆ルンバ。

息子はクラフトにハマり、工作を親にやらせている。

メダル、バッグ、おめん、風車、鳥、そして腕時計。

紙製腕時計はお父さんごっこによく使えるようで、大変重宝している。

紙製腕時計の前は、弟の電池が切れた腕時計を愛用していた。

「おじちゃんから貰った腕時計で、お父さんごっこする〜」

その腕時計は私が弟に贈ったものだ。

 

弟がロンドンに留学することになった。

社会人になりたての私は、ちょっと格好付けて「何か餞別でも」と考えた。

しかしながら、必要なものは親が買い揃えているし、荷物になるのもアレだし、何より役に立たなかったらなぁ…と悩んだ。

職場で仲良しの先輩がICU出身ということで、イギリスに知人がいるらしく、何が良いか色々と相談に乗ってもらい。

相談に乗ってもらいながら、そういえば腕時計を持っていなかったなーと気付いたので、新宿のヨドバシに買いに行った。

弟が好きな青の文字盤の、15000円程度のもの。

併せて、職場先輩の知人からは「冬のトイレが寒い」と情報を貰ったので、便座カバーも買った。

腕時計と便座カバー。

今はどうかと思うけれど、当時は最高に気の利いた合理的な贈り物だと自画自賛だった。

 

どのタイミングで渡したか忘れてしまったけれど、弟は腕時計を喜んでくれた…

というより、めちゃくちゃビビっていた。

『これ、壊したら姉貴がめっちゃキレるやつじゃん』

なんで壊す前提で人のこと勝手に怯えてんのさ。

『えー、でも良いの?俺、この青好き〜』

腕に付けながら、割と喜んでいるっぽい。

「ほら、まだあるよ。便座カバー」

『は?』

「ロンドンに行けば、きっと有り難みがわかるよ」

『んー。』

便座カバーはサラッと見ただけで終わった。

そりゃそうだよな。

 

その腕時計はロンドンと、その後のシドニーで割と活躍していたらしい。

社会人になって、自分で新しい腕時計が欲しくなったときには

『買い替えて姉貴に怒られないか』

とめちゃくちゃビビりながら、自分で選んだそうだ。

ねぇ、私なんでそんなにビビられてんの。

人の手に渡った時点で、口出すつもりはないぞ。

買い替えてからも、腕時計は保管していたようで、息子が腕時計のおもちゃを所望したときは

『1番いいところに譲渡できた』

と言わんばかりに、安堵したように見えた。

 

そういえば、二人暮らししていたときの誕生日に財布をプレゼントして、

それを買い替えようと思っていたときも

『姉貴に怒られないかな』

とビビっていたらしい。

私が直接言われたわけではなく、親から

「あいつ、贈ったのを使わなくなったらアンタに怒られないかビビっていたよ」

と聞いていたから、多分マジでビビっていたんだろう。

失礼な奴だ、贈り物使う使わないで怒ったこと、

 

あったわ二人暮らしして1番最初の誕生日に贈った“スヌーピーのTシャツ”。

可愛かったし似合うと思ってチョイスしたけれど、恥ずかしかったらしい。

「少しは着なさいよ!」

とかチマチマ言ったわ私。

これが原因じゃないか。

今の今まで忘れていたわ。

 

夫も私が贈ったものを処分するときに、一声掛ける。

そんなに私、怒っているのかしら…怒っているのね。

どうしよう、凹んできた。

 

息子が紙製腕時計を、レジのおもちゃにかざして「ぺいぺい!」と言っていた。

私のApple Watchの真似らしい。

可愛い、凹んでいられん。