余計なひとこと
日が短くなってきた。
お迎えの時間に、車のライトオンする季節になった。
息子も「寒いから長ズボン履いてこども園行く」と言った。
弟がいないのに、当たり前だけれど季節は進んでいくから、ちょっと気持ちが着いていかない。
少しずつ弟がいない時間が長くなって、私が還暦を過ぎて数年したら、人生の半分は弟がいないということになる。
そこまで絶対に生きてやるけれど、切ないなぁ。
弟が高校生の冬。
私は大学の冬休みで帰省していた。
その頃、弟は何故か「コートはかっこ悪い、恥ずかしい」という価値観だったので、雪国の真冬なのに、コート未着用。
学ランの下に厚着するという、そんなスタイルだった。
風邪を引いたら大変(だし、何かと面倒)ということから、母はコートを着るように促していた。
それはもう、必死だった。
「風邪ひくから!」
「アンタ毎年喉痛いってやってるじゃない!」
「毎年発熱しているじゃない!」
「コート着るくらい何が嫌なの恥ずかしいの!」
秋口から必死にプレゼンしていたんだろう、「何回言っても着ない」と頭を悩ませていた。
しかし弟も寒いと思ったのか、
ついに、年末年始頃…もしかしたら年が明けていたかもしれないが、着た。
母は喜んだ。
すこぶる喜んだ。
今までの努力が実ったとばかりに喜んだ。
そして弟はコートを着て外出して、夕方帰ってきた。
帰宅してコートを脱ぐ前の弟を見て、私は何か違和感を覚えた。
なんかが気持ち悪い。
なんだろう、生理的に「おかしい!」と思う…
ウエストにくびれがある。
ボタンが左右逆。
なるほど、女性用のコートだった。
母のお下がりのようだった。
何も考えずに、違和感の正体を私は口にした。どストレートに。
「あ!なんか気持ち悪いと思ったらアンタそれ女用じゃん!
ウエストくびれてるし左右も違うし、胸元もなんか違うし!
違和感の正体これか〜スッキリした〜」
弟、自分がどう見えているかなんて気付いていなかった模様。
そしてそれが女装した、なんかオカマっぽいのか…と思った模様。
『もうこれ着ない。2度と着ない』
そう言ってコートを脱ぎ捨てた。
私は母から、しこたま怒られた。
着せるのにどれだけ時間がかかったんだ、と。
余計なこと言うな、黙っていろ、と。
「えぇ…だって変なんだもん…」
譲らない私。
それ以降、弟が何を着たのかはわからない。
2人暮らししていた時は冬でもサンダルはいて風邪ひいたりしたけれど(続々 靴 - すずうくぬつ)
流石に社会人になってからは、その辺の体調管理はしていた。
この「余計なこと言うな、黙ってろ」は、今、私は夫によく使う。
変に息子を期待させることばかり言うな、と。
歴史は繰り返される。